2012年10月 晩秋の句会

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◯ 晩秋の兼題は「土瓶蒸し」「胡桃」「秋の雲」です。

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【土瓶蒸し】
ままごとのように出てくる土瓶蒸し   天天地人     音澄
のけぞりて笑ふ癖あり土瓶蒸し     天天       磨角
床上げの膳はまさかの土瓶蒸し     天天       菫女
兵児帯の緩んだ頃に土瓶蒸し      天地地地人    呑暮
万太郎の色紙眺めつ土瓶蒸し      天地人人     磨角
口喧嘩ひとまず置いて土瓶蒸し     天地人      小波
日の暮れの小さなしあわせ土瓶蒸し   天地       酒倒
あらためて旧婚旅行や土瓶蒸し     天地      喜の字
ちょい注ぎちょい啜りては土瓶蒸    天地       駒吉
この湯気はおれのだ吸うな土瓶蒸し   天地       呑暮
土瓶蒸し土瓶の口に三つ葉垂れ     天人人      仲春
土瓶蒸し暖簾くぐって犬になり     天人      雨不埒
回廊の角にこぼれて土瓶蒸し      天        風写

【胡桃】
ひきだしに捨てぬ胡桃とライターと 天天地地地地地地人  仲春
とある日の限界集落くるみ落つ     天天地地    喜の字
鬼と姫胡桃に二種あり人の世も     天天人      駒吉
居残りのバーは胡桃の苦さかな     天天       呑暮
胡桃割る二人の餅に足るるほど     天天       魯斗
明日のこと言わず手の中くるみ二個   天地人      菫女
嫌われる口実つくる胡桃かな      天人      雨不埒
細腕にこぶ現るや胡桃する       天人       呑暮
迷宮を秘めて夢見る胡桃かな      天        芝浜
胡桃割るけふの決意を忘れまじ     天        逆月
延し棒磨く胡桃や内暖簾        天        逆月

【秋の雲】
秋雲やあるはずのなき海匂ふ      天天天地     磨角
この旅は誰にも告げず秋の雲      天天天      音澄
古書市の人込みぬくし秋の雲      天天地人     呑暮
口笛を吸い込んでゆく秋の雲      天地地人人人   小波
お婆逝きもういいよねと秋の雲     天地人      山女
秋の雲鮫から鰐へと 見る見る間    天人       駒吉
拡がれる先よりほぐれ秋の雲      天人       魯斗
ビリケツの涙ににじむ秋の雲      天        逆月
七輪の煙向こうに秋の雲        天        雪童
秋の雲一期一会の旅の空        天       喜の字
秋雲と鏡のビルのイリュージョン    天        酒倒


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つぶやき再録

★蝸牛さんの選句とつぶやき-------------------------------------------

【土瓶蒸し】
天・のけぞりて笑ふ癖あり土瓶蒸し
地・土瓶蒸し正座で迎える我が一家
人・兵児帯の緩んだ頃に土瓶蒸し
天、親戚の集まる宴席かな、おじいちゃん譲りのお父さんの癖なのかなと、想像が膨らみます。
地、珍しく、ちょっといいお店に行ったときの家族の光景が目に浮かびます。「我が」は一歩間違うと説明臭く、野暮になりがちですが、ここでは「親父も食ったことないのかよ…俺ん家って(笑)」という軽い自嘲が、すごく効いててかわいいです。
人、確かに土瓶蒸しって、メインの後お腹いっぱいになりかけた頃に来ますよね。
「万太郎の色紙」も「どぜう汁」の句を彷彿とさせ好きでした。リズム的にも「まんたろの」と読むのかな—と思うとかわいくて。
 
【胡桃】
天・嫌われる口実つくる胡桃かな
地・ひきだしに捨てぬ胡桃とライターと
人・胡桃割る学校嫌いの子がふたり
天、ドラマを感じます。男女の複雑な想いとか。
地、胡桃って、食品であってどこか雑貨的で引き出しに入れちゃう感じがよく分かります、
人、胡桃のゴツゴツした感じと、幼い兄弟の反抗的な表情が響き合いますね。
小津映画『生れてはみたけれど』の
父「学校は楽しいか」
子「学校に行くのも帰って来るのも楽しいけど、その間がどうも気に入らないね」
の名ゼリフが浮かびました。
 
【秋の雲】
天・秋雲やあるはずのなき海匂ふ
地・古書市の人込みぬくし秋の雲
人・襟足の眩しき二十歳秋の雲
天、わたしの「天つ波」も同じことを意図していたのですが、小魚を登場させるよりずっとスマートで美しいと思いました。
地、古い本の香りと秋の肌寒さがリアルです。
人、若さを眩しく思う気持ちは、四十路前の私の中にも徐々に育っていますが、自分のそれとはまた違う透明感と趣を感じ、新鮮でした。


★仲春さんの選句とつぶやき-------------------------------------------

【土瓶蒸し】
天・ままごとのように出てくる土瓶蒸し
地・日の暮れの小さなしあわせ土瓶蒸し
人・あったかいお酒ください土瓶蒸し  
ままごとのようにとは言い得て妙。いい大人がチマチマと小さな土瓶から注いだり啜ったりしつつも、どこかしあわせを感じるんですよね。で、当然、お酒も注文します。人肌ぐらいでお願いします。
 
【胡桃】
天・迷宮を秘めて夢見る胡桃かな
地・胡桃割るなほ晩年の定まらず
人・胡桃の実殻に守られ地図を描く 
天、迷宮ねえ。うまい。
地、哀というか意識の翳が伝わってきました。胡桃を割るという行為には寂しさもあると。
人、地球か天体か。巨大な胡桃の実を想像。
  
【秋の雲】
天・ビリケツの涙ににじむ秋の雲
地・祖父見舞ふ短き旅や秋の雲
人・誰も居ぬ駅に降りたり秋の雲 
天、運動会ですね。負けて涙を流す、こういう子供、好きだなあ。
地 人、秋の雲には、どこかはかなさを感じるのでこの二句にも共感。短い旅なんだけど大事な旅なんだ。誰もいないけど広大な景色が広がっているんです。


★音澄さんの選句とつぶやき-------------------------------------------

【土瓶蒸し】
・床上げの膳はまさかの土瓶蒸し  天
・あらためて旧婚旅行や土瓶蒸し  地
・土瓶蒸し土瓶の口に三つ葉垂れ  人
 人の句、ああ、これ、あるんだよなぁ。次に注ぐときに、三つ葉が出くれればいいのだけれど、です。
天の句は、猛暑の夏、長く苦しい残暑があって、少し体調を崩して床についていた、と受け取りました。春先からの病、というのではない。そこで、あ、もう土瓶蒸しか、思いのほか長く休んでしまった、よし、もう大丈夫です、という気分。
地の句、こういう旅に出られたらいいなぁ。二人で旅に出るのは初めてではないけれど、はっきり旧婚旅行と思いながらの旅。
 
【胡桃】
・胡桃割る二人の餅に足るるほど   天
・ひきだしに捨てぬ胡桃とライターと 地
・頑として割れぬ胡桃を手に遊ぶ   人
二人分の胡桃餅を作るという情景が、天でした。「胡桃とライター」が木製の引き出しの中にある。ライターはジッポですかね。胡桃は何かの時に手に入れて、一個なので食べるということもなくずっとそのまま。捨てられない思い出が絡みついているというわけではないんでしょうが、捨てる気にはなれない、といったところ。人の句は、胡桃が一番堅かったのが気に入りました。
 
【秋の雲】
・秋雲やあるはずのなき海匂ふ    天
・口笛を吸い込んでゆく秋の雲    地
・文字盤に高く映るや秋の雲     人
わりと扱いやすい季語のせいでしょうか、月並みな句が多かった気がします。どういう心情の背景に「秋の雲」を配するかといったあたりがツボでしたかね。
天は、とり合わせがうまいなと、引き込まれました。地の句、そうですね、口笛かハーモニカですね、昭和の感覚だと。人、校舎の正面にある大きな時計なのか、自分の腕の時計なのか、小さな時計に雲が映っているほうがいいか。


★呑暮さんの選句とつぶやき-------------------------------------------

【土瓶蒸し】
天・床上げの膳はまさかの土瓶蒸し
地・土瓶蒸しひとの話は聞き流す
人・色づきし山を遠見に土瓶蒸し
 土瓶蒸しを家でやる人は知りませんが、それだけ日常と隔絶しているというか、そもそもは湯とか茶を入れるべき土瓶に食べ物が入っているのがおかしいわけです。まさに今回あった「鍋デ喰ウダヨ」が本来であって、秋の山の味覚を詰め込んだ鍋が小宇宙であるなら、土瓶蒸しはプラネタリウムです。つまり多分に記号的であって箱庭的です。そして、その記号性を「マツタケ」が強化している。一方で、いかに記号的でもマツタケの香りはアナログな実体なので、(目的としては)記号的であるが(酒食という)実体を持つ(えてして公的な)宴の場にふさわしい。
宴会を拡大したのが旅であり、そういう句を探しましたが、あまりいいのがなかった(最初は「旗に惹かれて」を「引かれて」と読み間違え、ガイドさんを先頭に店に入っていく光景を思い浮かべ、これはいいぞと思っていた)。
だから、ということでは全然ないのですが、宴会でも旅でもないけれど日常を取り戻すという意味で非日常的であって、家でマツタケを食べるなら「鍋デ喰ウ」のが筋としても、まだその体力がないので「まさか」の土瓶蒸しにした、という句を「天」に取りました。
 
【胡桃】
天・ひきだしに捨てぬ胡桃とライターと 
地・明日のこと言わず手の中くるみ二個
人・同窓会欠席の○胡桃割る
 くるみの殻、不必要に硬いですよね。外敵から身(実)を守りたいにしても。あれだけ殻が硬いと、地面に落っこちてもなかなか芽が出ないんじゃないですか? 身を守りたい気持ちが高じて、結局子孫を残すのに不便だとしたら本末転倒です。本末転倒といえば、一時期赤ワインの健康ブームがあって、酒が飲めない人もがまんしてワインを飲んでいたという笑い話があります。それに比べれば、同じ健康法でもてのひらでくるみを転がすのは害がない。
しかし、一生懸命「まだ300回しか転がしてない。1日1000回転がさないと」というふうになっては、これもまた違うような気がします。くるみをごろごろするのはそれ自体、気持ちいいことなので「地」のようにごろごろ行きたい。
逆に「人」は殻に閉じこもっているのでしょうか、それともそういう形で自分を解き放ってみたのでしょうか。同窓会幹事の立場からすると「欠席」に○だけついた返信ハガキを見て、硬い殻を割って心根をのぞきたくなるかもしれません。
 
【秋の雲】
天・口笛を吸い込んでゆく秋の雲
地・秋雲やあるはずのなき海匂ふ
人・秋の雲背負いて山の近づけり
 夏からずっと息は吐いてきたんです。吸うと、焼けたアスファルトに加熱された埃っぽい空気が胸の中に入ってくるから。しかし涼しくなって、さらに少し肌寒くなってきて、ああ空気って濃くておいしいなあと。埃っぽいのは変わらないんだけど、都会の匂いがするなあと、神保町のすずらん通りなどを歩いていると思うわけです。
「天」の方はどのへんの空気を吸ってらっしゃるか知らないんですが、もし記憶と匂いの関係が言われるほど密接であるなら、空気は人の思考を左右できるかもしれない、と考えてみたりします。
「地」の句は、そんな私の妄想と重なる部分があるのでしょうか。海の匂いは、海だけが持っているものではないということですね。


★逆月さんの選句とつぶやき-------------------------------------------

【土瓶蒸し】
天・万太郎の色紙眺めつ土瓶蒸し
地・兵児帯の緩んだ頃に土瓶蒸し 
人・土瓶蒸し土瓶の口に三つ葉垂れ
土瓶蒸しは飲むものか、それとも食べるものか。あの特製?おちょこがついてくるのをみると、贅沢な食材をダシに使った贅沢な吸い物であるというのは疑いを入れないところだ。しかしながら、海老に銀杏、まつたけと、食べないで残すにはあまりに豪華なメンバー!やはり最後には食べる。しかし、しっかり香りを出し切った具は正直言ってつゆほどにうまくはない。まこと悩ましい一品であります。拙句の一つはそのせつなさを詠んだつもりですが、入れてもらえないでしょうねえ。
余り直截なものより、万太郎や兵児帯くらいの方がしっくりすると思いました。が!土瓶の口から必ずと言っていいほど垂れている三つ葉!!という鋭い観察には脱帽するばかり。天でもよかったくらいです。
 
【胡桃】
天・明日のこと言わず手の中くるみ二個
地・胡桃割る学校嫌いの子がふたり
人・塩胡桃治療の奥歯に軋みをり
これまた難しいお題でした。なんというか、感興というものが湧かないんです。あのゴリゴリはどうも優しく包み込んでくれるのではなく、負のイメージが伴う。だから、土瓶蒸し同様写生句が、創りにくい、選びにくい・・・でこういうことになりました。
 
【秋の雲】
天・この旅は誰にも告げず秋の雲
地・襟足の眩しき二十歳秋の雲
人・口笛を吸い込んでゆく秋の雲
今回この季語でほっとしました。天。その気持ちわかるなあ。地。遠景の雲と近景の襟足がぞくっとするような対比。秋のお色気ってこういうことか!人。平凡なようで非凡なキャッチング・パワー。きれいです。


コダーマンの雑貨屋・頑固堂

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このページは、cave(管理人)が2012年10月26日 01:39に書いたブログ記事です。

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