◯ 仲夏の兼題は「五月川」「柏餅」「桜桃忌」です。
【五月川】
単線の音高く越ゆ五月川 天天天天地地人 磨角
山の香を里に運ぶや五月川 天天天天 青羽
五月川大阪平野を二分して 天地地 岩牡蠣
名も知らぬ花くるくると五月川 天地人人人 青羽
なけなしの雨を集めし五月川 天地 呑暮
五月川田の隅々まで水渡る 天人人 山女
五月川おっとり刀の消防団 天 音澄
【柏餅】
孫五人太郎ばかりや柏餅 天天天人 仲春
挫けし日母のまあるき柏餅 天天人 好喜
柏餅葉の香なつかし祖母の家 天地地人 岩牡蠣
玄関に伯母の残り香かしわ餅 天地地 酒倒
笑んで喰む吾子のほっぺや柏餅 天人人 青羽
年寄が並ぶ店先柏餅 天人 雨不埒
それぞれに柏餅買ひ別れけり 天 磨角
卓袱台の布巾の下の柏餅 天 芝浜
曇天も部活掛け声柏餅 天 見燗
柏餅味噌餡足らず剣呑に 天 音澄
【桜桃忌】
終活や古書も荷造り桜桃忌 天天地地地地 雪童
とつとつと降る雨太し桜桃忌 天天人人 見燗
太宰忌や文学少女枯れにけり 天地人 仲春
背広ひとり茶屋に居りたる桜桃忌 天地 見燗
降りるべき駅を過ぎをり桜桃忌 天地 磨角
死ぬことをひらりかすめる桜桃忌 天人人 青羽
棚奥へ深く沈めし桜桃忌 天人 風写
止まり木に弱虫見つけ太宰の忌 天人 好喜
月曜がのそり始まる桜桃忌 天 呑暮
駅前の書店で知るや桜桃忌 天 青羽
赤みどりソーダに沈む桜桃忌 天 芝浜
★音澄さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
「五月川」は、五月雨が毎日降り続くと、川は濁り水の量を増し、岸の葦叢を浸し流さんばかりの光景になる。(角川俳句大歳時記)
ということで出題してのですが、なじみがなかったか、少々受け取り方に違いがあって、五月の穏やかな川面を詠んだ句もありました。
【五月川】
・単線の音高く越ゆ五月川
・五月川大阪平野を二分して
・五月川田の隅々まで水渡る
【柏餅】
・孫五人太郎ばかりや柏餅
・柏餅そっと食みたりピアスの子
・かしわもち戦時は餡も餅もなく
【桜桃忌】
・太宰忌や文学少女枯れにけり
・終活や古書も荷造り桜桃忌
・止まり木に弱虫見つけ太宰の忌
柏餅の「孫五人」がみんな太郎という句は、なんでもない句に思いましたが、五人の孫が元気にワーワーいっている風景を描くことができて、山盛りの柏餅なんかが卓上にあるんだろうなぁ、と思うとじわじわいい句になっていきました。
ピアスと柏餅、意表をつかれました。
「桜桃忌」は、太宰という作家の人物像が行き渡り、固定していることがわかりました。固定されてしまった太宰像からポンと飛び出した句がなかった。
桜桃忌の句に「種植えり」という下五がありました。種は蒔くものではありませんか。やや違和感ありでした。植えるのは苗木、苗でしょう。
大雨の被害はなかったでしょうか。